キス逃げ ―衛side―

次の日。


一寸先は闇。


この言葉の意味を、体で感じる出来事が起こったのだ。

休み時間に、何気なく廊下に出た瞬間に目撃したもの……それは


横からダダダダダと音がしたかと思うと

「紗柚先輩!!」

と、大声が聞こえた。

驚いて振り返った紗柚に



――――チュッ



!!!!!!


紗柚が【キス逃げ】ターゲットになってしまったのだ。

そのまま男子は逃亡。


俺の頭の中は混乱中。


「ヒュー紗柚。モテるぅ~~」

美依の囃したてる声でハッと我に返った。


周りを見渡す紗柚と、視線が絡み合う。
なんだか複雑な心境に、俺は紗柚から目を逸らし、教室の中に入っていった。


――――ガタン


俺は荒々しく自分の席に着くと、その様子を見た数人の男友達がびっくりして集まってくる。


「どうしたんだよ、衛」

「珍しいじゃん」

「なんでもねーよ」

って、何でもないはずはない自分の態度。


分かりやすいな、俺。


みんな好き好きに盛り上がりやがって。

ってか、何なんだよこの感情。

これが、身内を取られた心境なのか?

それとも、違う感情が……


「衛」

って、いきなり紗柚が横に居るし。

「なに?」

明らかに機嫌が悪そうに返事をしてしまう俺。


カッコ悪っ!!!


「ちょっと良い?」

良い訳ねーだろうが。

「忙しいから無理」

周りの奴らも何か察したらしく、『行けよ』と肘で合図を送ってくる。


うっせーーーー


こんな状態で話しても仕方ないだろうが。

無言で腕を組んでいると、諦めたのか俺の元を離れていった紗柚。

いつもは腕をひっぱって行くのに、今日はさっさと退散かよ。


早くこのモヤモヤ治まれ!!!

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