キス逃げ ―衛side―
あんな手紙を渡したら、1日中落ち着くはずが無い訳で……
授業なんか受けていても上の空。
やっぱりチキンだな。
頭の中は、「なんて言おうか」とか「友達で居られなくなるんじゃないか」とか、とにかく不安ばかりがよぎって行く。
とりあえず、勉強しいてるふりはしていたけどね。
なんて言ってるうちに、とうとう終業のベルが鳴ったりする。
さっさと帰り仕度をしていた俺は、一番に教室を出て屋上に向かった。
屋上に行くまでの間、心臓バクバク言ってんの。
やっぱりチキン。
「来なかったらどうしよう」なんて不安が脳裏によぎる。
それを振り払うよう、足早に屋上に向かった。
――――ガチャ
屋上のドアを開けると、真っ青な空が目に飛び込んでくる。
少し強いけど、さわやかな風が俺を迎え入れてくれた。
まだ、誰もいないガランとした屋上をゆっくり歩いて行く。
フェンスまで辿り着くと、フェンス越しに景色を眺めていた。
何だか、さっきより落ち着いている俺。
それでも、フェンスを持った手が少し震えている事に自分でも可笑しくなった。
いまさら、自分の本当の気持ちに気付くなんて……
紗柚はどんな反応をするんだろう?
そんな時、背後でものすごい勢いでドアが開かれる音がした。
――――バンッ
紗柚?
そう思って振り返った瞬間、数人の女の子がドアから入ってきた。
そのうちの1人は、俺に向かって一直線に走ってくる。
何も考える暇がなかった。
気がついたら、女の子が目の前に立っていて
「衛先輩」
なんて言いながら、顔が近づいて来たのを拒む事さえ出来ずに固まってしまっていた。