キス逃げ ―衛side―
どうにか拒もうと体を後ろに引こうとした瞬間、再び屋上に入るドアが荒々しく開いた。
―――バンッ
俺に視線の端に、辛うじて紗柚の姿をとらえた。
その瞬間、気づいたらその子の唇が俺の唇に触れていたのだ。
―――チュッ
軽くキスをしたその子は満足げに照れ笑いをすると、キャーキャー言いながら側で待っていた仲間達と共に、紗柚の脇をすり抜けて階段を降りて行った。
最悪だ。
その場にへたり込む紗柚。
近づいて行くと、俯いた紗柚の頬から落ちる滴が乾いたアスファルトを少しずつ濡らしていくのが分かった。
「紗柚」
俺が紗柚を苦しめている……そんな事実に胸が痛くなる。
いつもはしっかりしている紗柚が、今はすごく儚くて壊れてしまいそうだった。
俺は抱きしめたくなる衝動を抑えて、紗柚の頭を撫でたんだ。
サラサラと揺れる髪の毛からは、女の子独特のシャンプーの香りがした。
「もう……触らないでよ…!!!」
俯いたまま首を振った紗柚。
強がっているのは容易に分かった。
「おあいこだろ?」
そんな言葉に反応して顔を上げた紗柚に、いつになく真顔になってしまう俺。
「…違うもん……衛の方が…沢山キス…されてた」
そんな強がりでさえ、今は愛おしく思える。
俺は紗柚の手を取りグイッと引っ張り上げ、そのまま手フェンスの方にゆっくりと歩き出した。
フェンス越しにグラウンドが見える位置まで行くと、俺は手を離し背中向きのまま話し始めたんだ。