小さな百合の花

「寒い」

「うん」

「ねぇ、寒いってば」

「うん」

「この意味分からんのん?」


そう強気で言った私。

宙ぶらりんの私の右手を繋いで欲しくて。

横断歩道の前だった。

冷たい風が鼻の先を赤くする。

お気に入りの緑のコートにポケットはついている。

そこに手を突っ込めばいいのに、私は要求する。遠まわしに。


横断歩道の信号が赤から青に変わると、彼は私の右手を握ってくれた。


何も言わずに。ごく自然に。

思わずはにかんでしまう私。


「こうして欲しかったんやろ?」


と聞かれる私は、はにかんだまま大きく頷くことしかできない。

嬉しくて声にできないってことをこの時改めて実感した。


春に入る前の冬だった。

付き合ってまだ間もない頃。

キスもしてなかった。

それは初めて手を繋いだ日。

そのすぐ後にキスしたんだっけ。
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