小さな百合の花
この季節。
半袖で歩いている人はもういなくて、夜になったら鼻をかすめる冬の匂い。

秋に私と彼は初めて出逢った。

もしどこか違う所で実は会ってたりしたら嬉しいな。

けどお互いが存在すると認識できたのはこの季節。


昨年のこの季節。


私は生きる意味さえ見失っていた。

大学には特定の友達しかできず、中学や高校の頃に味わった目的のある生活をしていなかった。

ただ、時間に身を任せて人ごみから目立たないように生きていた。

誰かの為に生きるだとか、何かの為にこれをするだとか、そんな馬鹿げたことしたくない。
いつしかそうやって生きていたそんな昨年。


秋学期が始まった初日。

私は大学で仲のいい友達と三宮のミスタードーナツの2F席で履修登録の打ち合わせをしていた。

そして、ついでにバイト探し。

その頃もやっていたパン屋のバイトだけでは大学生活と家計を充実させることができなかったから。


「飲食店は嫌やんな」
「居酒屋とか?」
「あーもう絶対無理」
「じゃあパン屋は?」
「別のパン屋のパンも覚えるの?だるいって」
「駐車場の番人とかは?」
「番人ってなによ」

「あ、これいいじゃん。遊園地スタッフ」


友人が何気なく見つけた募集要項。

それは求人情報誌の中でもひときわ目立たない左上。

写真がついているわけでもなく、大きく宣伝されているわけでもない。

そこに一寸の迷いもなく、本当にすぐに連絡をいれた。
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