黒豹プリンスと傷だらけのプリンセス
その日の放課後。

それは、本当に呆気ないことだった。


「ごめんなさい。私、彼氏とかつくろうって気、全くないから」


奈美は、自らの想い人が麗にあっさりとフられるのを、物陰から盗み見た。


(何て……女なの)


まるで、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けて。

最早、涙も出なかった。


自分は彼に一目惚れしてから……気に入られるために、日々、美しくみえるように努力をしてきた。

そして、勇気を出して初めて声をかけて言葉を交わした時……あのドキドキとときめきは、今でも忘れられない。

それを、あの女……大した努力も苦労もせずに、あの人に恋慕われて。

いともあっさりとフりやがった……!


(許せない! あの女……私から細やかな幸せを奪いやがった。あの女がいる限り、私は幸せになれない……)


逆恨みも甚だしいと思われるかも知れない。

だがしかし、奈美はそのことで麗に対し深い憎悪を抱くほどに、彼に惚れ、幸せな未来に想いを馳せていたのだ。




その日……いつも通りの帰り道。


「ねぇ、うららは彼氏、つくる気ないの?」

「ないよ。そんなしょーもないもん」

「えー。うらら、そんな可愛いくて綺麗なのに。その気になればすぐに、イケメンでお金持ちで素敵な彼氏がつくれるだろうに、勿体ない」


奈美は無邪気に麗と言葉を交わして。


だが、しかし……


(こいつだけは、許さない……!)


心の中では、凄まじいほどの嫉妬と憎悪の炎を燃やしていたのだった。


* *
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