黒豹プリンスと傷だらけのプリンセス
翌日。

私は健の退院準備を持ち、ウキウキと病院に向かっていた。


すると、前から歩いて来る……あの世界でも見慣れた顔と目が合った。


「うらら……」


もともと元気がなかったその見慣れた顔はさらに曇り、バツが悪そうに俯いた。


「奈美……」


彼女はきまりが悪そうに俯いていたけれど、体の方は特に何もなく大丈夫そうで。

私はホッと一安心した。





「うらら、何か、その……ごめんね」


私にそう言って謝る彼女は、私の知っている優しくて純粋で思いやりのある奈美で。

私は思わず、クスッと笑った。


「ごめんって? 何のこと?」

「えっ? いや、その……」


あの世界でのこと。

それは、夢だと言ってしまえばそれまでだし、現実だったとも思える。

だけれども……あの凶悪な顔が奈美の一部だとしても、今、私の目の前で俯いている純粋な彼女も紛れもなく奈美で。

すっごく……海よりも深く反省してるんだってことが分かった。


「まぁ……私も変な夢を見て。その夢の中では、奈美。あなたは自分の醜いところも全部、私に見せてくれて。普段のあなたは、すっごく我慢してたんだっていうことが分かった」

「それは……」

「でも、私も。あなたとか……他の人の気持ちを考えようともしないで、きっと、知らない間に沢山の人を傷つけてたんだろうなって。反省しているんだ。だから、お互い様ってことで! ……っていうか、奈美が無事で良かった」


そう言って微笑むと、彼女の顔も綻び、にっこりと笑って……

だがしかし、瞳を滲ませて俯いた。


「ねぇ、麗。私……あなたのことが、ずっと羨ましかった。だって、あなた、いつ見てもすっごく綺麗で、みんながあなたのことを好きになって。それで、妬んで……私の努力が足りなかっただけなのにね」


そう言ってちょっぴり舌を出す奈美は、やっぱり私の知っている可愛らしい彼女で。

私はそんな彼女に少し首を横に振った。


「そんなことない。奈美はすっごい努力家で、私なんて、いっつも見習わなければならないと思うことばっかりで。私なんて、ツラかったことや傷ついたことを自分への言い訳にして、逃げてばかりで、いけないところばっかりだった」


私は自分自身、噛み締めるように言った。
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