黒豹プリンスと傷だらけのプリンセス
「うらら。どうしました?」


レオパードが首を傾げて不思議そうに、キスの後の沈黙を裂いた。


「えっ?」

「いえ。何だか急に静かになったので」

「えっ、いや、そんなことないわよ。ただちょっと、景色に見惚れて……うわぁ! 何、これ? すっごく綺麗……」


照れ隠しにペガサス車からアルビンを見下ろして……

だけれども、それは照れ隠しに留まらなかった。

何故なら、私はその美しさにすっかり見惚れてしまったのだから。


そこは、空から見渡す限りの銀色の世界で……その氷は、まるで鏡のように青空を、穏やかな陽射しを、私達を映して輝いていた。

こんな綺麗で澄んだ氷は見たことがなくて……前世の私は、こんなに綺麗な国で生まれ育ったんだ。

そのことを実感すると、何だかとても嬉しくなった。




すると、レオパードもにっこりと笑って嬉しそうに話した。


「はい。アルビンは三国の中でも、その美しさは群を抜いています。そして、国民も。寒さの厳しい国ではあるのですが、みんな、美しく純粋な心を持っている。そう、前世のあなた……うららプリンセスは言っていましたし、私もそれは確信しています」


「そうね。本当に、綺麗……」


初めて見る『前世の自分』の生まれ故郷。

それは吸い込まれそうなほどに美しくて……

ウルフが不穏な動きをしているという暗い報せを、束の間ではあるが忘れてしまうほどだった。
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