【完】世界を敵に回しても
『ん……』
ダメだとわかっていながら、俺は彼女を抱いた。
抱いていて、自分は何をしているんだろうと思った。
この選択は、おかしいと。
それでも、好きだったから。
避妊もしなかった。
出来なかった。
妊娠すればいいと思った。
そうすれば、彼女はどこにも行かないと。
そういう選択をするような子じゃないことは、俺は知っていたくせに。
「ごめん」
そして、俺は今、彼女に頭を下げている。
俺は彼女から、仕事も自由も何もかもを奪った。
「悪かった。ちゃんと、責任はとる。子供は俺が引き取るし、慰謝料もお前が望むだけ払う。だから、だから……おろさないでくれ」
「……」
最低な願いだ。
それでも、失いたくなかった。
ヤッた後に、気づいた失態。
彼女が出ていく朝も、覚えてる。
彼女の甘い声も、熱も、何もかも……覚えてる。
「有栖川さん」
「……」
「私、おろさないよ?おろしくたくないから、産むって決めたから、会社を辞めるんだよ?」
顔を上げると、彼女は笑ってた。
「驚いたし、悩んだけど……この子は私の子。だから、責任とか感じないで?」
「そんな訳には……っ!」
君を欲しいとは、言わないから。
「ねぇ、なんで、私に妊娠していてほしいと思ったの?貴方は大事な跡取りでしょう。子供が欲しいのなら、別の人とでも……」
「別のやつは、ダメなんだ」
「どうして?前に貴方の御両親に仕事でお会いした時、貴方の御両親は勿論、祖父母も結婚させるって言っていたじゃない。なのに……」
「これは、俺の気持ちの問題だから」
「……」
俺は、何を言おうとしている?