イン a ドリーム ■
そんなだだっ広いだけの危険な屋上で、今割かし安全と言えるのは、右へと傾いた時計塔の影だけ。


私はその影の中へと足を踏み入れた。


幾分暑さはましになったとはいえ、暑いことに変わりはない。


この暑さから解放されるには、早く終わらせるしかないと、私は早速ラケットを振り始めた。


誰もいない屋上に聞こえるのは、素振りの回数を数える私の声と、どこからともなく響いてくる蝉の鳴き声だけ。


全身から汗が吹き出し、時に背中を流れ、時に足を流れ、時に髪の毛が張り付く顔を流れたものは、顎の先からポタポタとコンクリートに落ちていく。


ここまでくれば、Tシャツやらハーパンやら全てが体にまとわりついて気持ち悪いどころではない。


何かの罰ゲームだ。


いや、実際罰なんだが。


タオルで拭うよりも、いっそシャワーを浴びたい。


プールに飛び込むのもいい。


なんなら、花壇の水かけ用のシャワーホースで水浴びでもいい。



ああ~暑い~



素振りをしていても、こんな感じで暑さのことばかりに頭がいってしまう。


100を数え終わった辺りで、暑いと思う思考だけでも、まぎらわせる物がないか空に視線をさ迷わせた。


鳥でも、雲でもいい。


しかし、澄み渡った空には鳥一匹、雲の一欠片さえ漂ってはいない。

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