イン a ドリーム ■
なんの感情も読み取れない無表情な顔で。


その男には見覚えがあった。


朝、私に痴漢した男だ。


何故あの男がここにいるのか疑問に思う前に、"ヤバイ"と思った。

朝のことを謝りに来たわけではないのは、一目瞭然だ。


防衛本能で一歩後ずされば、男がのそりと一歩足を進める。


また後ずさろうとしたが、男が動くのが先だった。


何かのスイッチが入ったように走りだし、私の首に手をかけた。


力の入る手に、首が絞まっていく。


「グッ…」


息が苦しい…


そのまま押され続け、腰に柵が当たる。


無表情だった男の顔にはいつしか狂気が宿り、爆弾と対峙したときには感じなかった別の恐怖を感じた。


背中が弓なりに反り、柵から体が乗り出せば、横目から階下が見えた。


窒息するのが先か、柵から落ちるのが先か、どちらにしろこのままでは死んでしまう。
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