白に染まる、一滴の青。

「どうしたら早く大人になれるんだと思う? 私って、大人っぽく無ければ内面もまだ子供で、もう22歳になるっていうのに何も成長してない」

筆をすらすらと操り、絵を完成に近づけていく慧。そんな慧に向かって突然口を開いた楓は、恐らくついさっき慧に聞いて欲しいと話していた〝愚痴〟を話している。

慧は、彼女の言葉にぴたりと腕を止めて、唸るようにして声を出した。

「大人になる方法、ですか」

まず、〝大人〟の定義とはなんだろう。なんて、理屈っぽく物事を考えがちな慧は、また彼女の質問に対してはっきりとした答えは出せそうになかった。

「いつも私の前を歩いてて、何度も振り返ってくれるのに、待ってはくれない。私だって追いつきたくて必死なのに、何を頑張ったって、全然追いつかない」

楓が話しているのは、何かのライバルの話だろうか。夢を共に追うライバルがいつも先を歩いていて、追いつかない。そんなもどかしさを訴えているのだろうか。慧は、そんなことを考えながら、ただ楓の方を見ていた。


「早く大人になりたい。そうすれば、きっと私だって隣を歩けるのに」

慧の返事を待つことなく楓は窓際に目をやり、そう小さく呟く。

窓の向こうを見ている彼女の瞳は、ぐらぐらと揺れていた。

時々、彼女がする目だ。こちらまで苦しくなりそうなほど哀しくて、儚い。だけど、どこかにたまらなく深い愛おしさのようなものが含まれた綺麗な目。また、彼女はそんな目をしていた。

< 12 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop