白に染まる、一滴の青。
「僕からモデルになってほしいって誘ったのに嫌いだったら、逆に驚きますよね」
先輩のことを好きなのか、嫌いなのか。それを問われてもよく分からない。だけど、嫌いではないことだけは慧の中ではっきりしていた。
可愛げのない後輩の一言に、楓はまたころっと表情を変えて笑い声を漏らしだす。
「先輩も十分分かりやすくて良いと思いますけど」
初めて会った時のように、時々、悲しそうにしたり。こんな風にして唇に弧を描いて笑ったり。まるで赤ん坊みたいにころころと変わる表情。慧とはまた違うけれど、彼女だってとってもわかりやすくて親しみやすい。
そんな慧の不器用なりの言葉が伝わったのか、彼女はまたさらに目尻を下げて笑った。
「あはは、慧くんにそう言われるのは何だか自信になるなぁ。ありがと」
「こちらこそ、です」
またいつのまにか止まっていた筆を握りなおし、パレットへと運ぶ。
照れ笑いを浮かべながら前髪を手ぐしで直した彼女をモデルにした油絵は、もう既にほとんど完成形だった───。