白に染まる、一滴の青。
「この事件、9人も被害者が出たでしょう? 県内の話だったし、慧と同い年の女の子もいたのよ」
「そうだったんだ」
母の言葉を聞きながら、テレビの画面を見る。すると、母の言った通りそこには被害者の名前と年齢が9名分映し出された。
当時は、毎日このニュースで持ちきりだった。それは、慧もよく覚えていた。だけど、被害にあった人の中に小さな男の子や、同い年の女の子。当時、慧と同じ大学生だった女の子がいたことは今になってはじめて知った。
「世の中物騒だから、あんたも気をつけなさいね」
眉尻を下げ、悲しそうな顔をしている母は当時もこのニュースを見ては涙を流し、同じような表情をしていた気がする。
人一倍思い遣りのある母のことだ。きっと、自分に重ねてしまい他人事とは思えないのだろう。
「ごちそうさま。行ってくる」
両手を合わせ、そう一言を告げる。そして席を立った慧に、母は「気をつけて行くのよ」と心配そうに言った。
「今日の夕ご飯、楽しみにしてる」
「ふふ。分かったわ。今日は張り切って作るからね」
あまりにも心配そうな表情を浮かべている母を安心させようとした慧の言葉は効果覿面だったようで、母は口角を上げて嬉しそうに笑った。