白に染まる、一滴の青。
慧の通う美術大学は、家の最寄りから四駅離れたところにある。いつものように最寄り駅まで自転車を飛ばし、駐輪場に自転車を停めると駅構内に入った。
いつもと変わらないホームにやってくる、いつもと変わらない時刻の電車。足元に記された6という数字の前に立ちぼうっと電車を待っていると。
「岩本」
背後から聞き覚えのある声が聞こえた。声のした背後へゆっくり振り返ると、そこには高校の同級生だった青山隆太が立っていた。
「びっくりした。青山か」
黒く重めの前髪が今時な青山は、スタイルも良く服装もお洒落で高校の頃から常に周りに人が集まる人気者だ。
人当たりも良く優しい彼は、高校時代から少し浮いていた慧にも他のクラスメイトと同じように接してくれた。青山は、多分、誰かの懐に踏み込むのがとても上手い。だから慧にとって青山は、気付いた時には唯一の友人になっていた。
「まさか岩本、夏休みにも大学通ってんの」
ありえない、とでも言いたげに顔を顰める青山。どうやら彼は、大学へ行くわけではないらしい。
「コンクールの絵とか、いろいろ描きたくて。夏休み入って一週間以上経つけど、一応毎日通ってるよ」
「そっか。高校の頃からずっと描いてたもんな」
青山が懐かしそうに微笑むと、構内にアナウンスが流れ始めた。どうやら、慧の待っている電車がホームへやって来るらしい。