白に染まる、一滴の青。

「青山は、もう全然描いてないの?」

青山は、高校の頃慧と同じ美術部にいた。運動も得意な青山は、当時部員の少なかったバスケ部に借り出されたりしていたせいか美術部の活動に参加していたのは月ニ、三回程度。しかし、実力は当時の美術部員の誰よりもあった。

繊細で、尚且つ迫力のある彼の絵は、コンクールを出せば何かしら賞を取って帰ってくる。何をしても成績を残せる彼のことを、一体どれだけ憎らしく思って、羨んだことか分からない。


「うん。もうずっと描いてないな。時々描きたくなることもあるけど、今は国試の事でいっぱいいっぱいだから」

「そっか」

慧の小さな声をさらうように電車がホームに入ってきた。慧が先に乗り込み隅っこに立つと、後から乗り込んできた青山が口を開いた。


「今何描いてんの?」

「あ、えっと……」

自分から絵の話題を振っておきながら、その流れで青山が言った言葉は、慧が今聞かれると一番困る質問だった。

やましいことではないけれど、正直に答えれば質問攻めに合うことくらいは簡単に予測ができたし、自分の口から話すのもなんだか少しだけ恥ずかしい。

「何か隠してんな、岩本」

青山が慧の顔を覗き込むようにして見るとニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

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