白に染まる、一滴の青。
「……大学の、先輩」
口角を上げたままで慧の返事を待っていた青山が、小さく呟くように言った慧の一言に目を丸くして驚いた。
「まさか、それって」
〝オンナ?〟と殆ど口パクの状態で聞いた彼の勘はしっかりとあたっている。
ただ、女性の先輩の絵を描いているなんて、美大ではよくある話だ。そんな珍しくも何ともない話にオーバーなリアクションをとっている青山は、やはり慧の事をよく知っている。彼のリアクションが何よりもの証拠だった。
「そう。女の人」
「いや、異性どころか同性ですらなかなか打ち解けられなかった岩本が女性の絵を描くって……一体、何がどうなったんだよ」
高校時代の慧を知っている彼からすれば、おかしな話なのだろう。
クラスメイトと話をするのはもちろん、挨拶すら上手くできていなかった。いつも隅っこで一人静かにしていたけれど、クラスでは明らかに浮いている存在。そんな慧が青山とこうして話せるようになったのだって、間違いなく彼が話しかけてきてくれたのがきっかけだった。
自分から誰かに歩み寄ることの出来ない、コミュニケーションが人一倍苦手な人。そんな人間が、女性をモデルに絵を描く。なんて、確かにそんな展開は容易には想像できない。