白に染まる、一滴の青。
高校生の頃から、〝好きな人〟のいたことがない自分は人と違うと感じてきた慧は、そんな自分をコンプレックスに感じていた。
周りには、好きな異性がいる人ばかりだったし、そんなクラスメイトたちと話をする事があったってついていける気がしなかった。恋なんて、慧には未知のものだったのだ。
「慧くんにとっての〝普通〟ってどんなものを指してるの? 人それぞれの価値観や物差しがあるのに、普通なんて、何を基準にして決めてるの。慧くんは」
「それは……」
「〝普通〟なんて、自分に逃げ道を作るために勝手に生まれた基準点でしなかないと思う。普通とか当たり前なんて、絶対にない。慧くんは、自分にたくさんの感情を与えてくれる人にまだ出会えていないだけ。だから、そんなふうに謝る事ないよ」
最後、口角を上げて柔らかく笑った楓。少しだけ、いつもより厳しい口調だったはずの彼女が笑ったことに安堵すると、慧は鉛筆を手にしてクロッキー帳に速写をし始めた。