白に染まる、一滴の青。

「それって、メリットの方が少ないですよね。先輩を見てると、好きな人って作らない方が良いんじゃないかと思います。一人でも十分生きていけるのに、自分の中にそれだけ特別な存在を置くのって、結構リスクもありますよね」

人は、一人でだってきっと生きていける。それなのに特別な存在を自分の中につくってしまうのは、何のリスクもない日常の中で、自らリスクを背負いに行くことと同じだ。

特別で大切な人が出来れば、その人が傷ついた時に自分も苦しくなるだろうし、その人がこの世界から消えてしまった時、どうしようもない悲しみに覆われるのかもしれない。

慧はまだ、唯一その〝特別〟だといえる家族を失ったことはない。だが、それを失った時の悲しみを想像することくらいはできた。


「そういう考え方、慧くんらしいなぁ。確かに慧くんの言うとおりなんだけど、恋とか友情って、理屈じゃないんだと思う。大切な人や特別な人って、気づいたらできてるものだし、誰だって失いたくないと思える大切な人、案外たくさん周りにいるものだよ」

よく考えてみれば、楓の言葉は意外にも本当だった。

自分も相手に同じように思われているかは別として、慧にも、彼女と同じように失いたくないと思える人の顔が家族以外にも数人浮かんできた。

人と関わることを避けてきた慧だからこそ、今関わりのある人は全てその対象に入っていた。もちろん、目の前にいる彼女だって、早くもその対象だ。

< 30 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop