白に染まる、一滴の青。
「ね。理屈じゃないでしょ?」
慧の考えを見透かしたのか、楓は柔らかく笑ってそう言った。
「慧くんは、素敵な恋ができると良いね」
続けてそう言った彼女の言葉は、まるで自分は〝素敵な恋〟ではなかったという表現。そして、その素敵な恋をすることはこの先も無いと言っているように慧には思えた。
「もし、好きな子ができたら恋愛と人生の先輩として相談に乗ってあげるから何でも言ってね」
「そんな人、僕にできますかね。できるんだとしても、何十年も先の話になりそうです」
「あはは、それは勿体無いよ。せっかく若いのに恋愛も趣味も夢も、全部楽しまないと」
大きく口を開いて笑う彼女の笑顔は、もういつもと変わらない嘘の見つからない純粋な笑顔。
こんなに綺麗に笑う彼女の表情を、時々、とても苦しそうな表情に変え、時々、とても愛に満ちる大人びた表情にも変える人。それは誰なのか、慧は少しだけ気になってしまった。