白に染まる、一滴の青。
「小笠原」
いつもと同じアトリエ。それから、いつもと同じ目線の先で笑う彼女。そんな景色の中に、突然聞き慣れない声が飛んで来た。
楓と慧が殆ど同時に振り返ると、そこには、廊下からアトリエを覗いている焦げ茶色の髪をした男がいた。
バスケットボールのユニフォームを身に纏った彼は、爽やかな雰囲気と楓のことを親しげに呼んでいる点から、恐らくは楓の同級生だという事は慧にも予測ができた。
「あ、大野くん。どうしたの? こんな所で」
「いや、それはこっちの台詞。夏休みなのに小笠原がいるから驚いたよ。声かけようと思ったんだけど、そしたら絵画コースのアトリエ来てるし……」
ちらっと大野が慧に目をやった。慧が小さく頭を下げると、大野も少しだけ頭を下げて、また視線を楓に戻した。
「私、今、彼のモデルやってるの。だからサークル無所属なのに夏休みもここに来てるんだ」
「あー、そういうことか」
「大野くんも夏休みなのに殆どサークル活動で忙しそうだね」
「まあ、それなりにな」
「来週も試合するんでしょ? 頑張ってね」
笑顔で、スムーズに会話をパスし合う二人はとてもお似合いに見えた。