白に染まる、一滴の青。

慧には踏み込めない。踏み込んではいけない、そんな領域。慧は同じ空気の中で、一人取り残されていく。


「もし都合合うなら来週の日曜、小笠原も観に来てよ」

「日曜日ね、分かった」

「それじゃあな」

「はーい」

口角を上げたまま、手のひらをゆらゆらと振る。

姿を消すまで彼の背中を見送った彼女の横顔を見ていると、何故か慧の胸は何か黒い感情に覆われていくような気がした。


「彼、同じ講義受けてる大野くんって言うの。私と同じ経済学部」

「先輩、経済学だったんですね」

「あれ、言ってなかったっけ?」

楓は、けろっとした表情をして笑う。

「聞いてなかったです。僕と同じコースじゃないことは分かってましたけど、てっきりイラストコースあたりかと思いました」

この辺りで〝美大〟と言うと、この大学の名前が恐らく一番あがる。そのくらい、この大学は複数あるうちでも大きな美術大学だ。だからこそ、慧もこの大学でもっと絵を学びたいと思い進学を決めた。

絵画・彫刻コース、イラスト・デザインコース、日本画コース。その他に彼女の選択している経済学を学ぶコースもあるが、やはり、他の大学でも学べる内容で、尚且つ他の大学と比べて学費もかさむ為人数はかなり少ない。

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