白に染まる、一滴の青。
「経済学なら、他にももっと専門的に学べる大学があるのにどうしてここに決めたんですか?」
「あはは、確かにそうだよね。そうなんだけど、何となくここが良かったの」
楓がふと、不自然に目を逸らした。
あまりに不自然な動きをした視線に気がついてしまった慧は、これ以上踏み込んでは行けないと感じると黙って鉛筆を手にした。
「今日もクロッキーなの?」
「はい。まずは速写して、その中から油絵で描きたい先輩を選ぶことにします」
「あはは。そしたら、慧くんのクロッキー帳は私でいっぱいになっちゃうね」
「確かに。……って、もう既に先輩で六ページも埋まってます」
前回、クロッキー帳に速写をしたページを遡る。すると、色んな仕草をした楓がたくさん六ページに渡って描かれていた。
こんなに描いてたっけ、なんて自分でも驚くほどに描かれていた楓の姿を見ていると、慧は恥ずかしくなってクロッキー帳を閉じた。
「あ、ちょっと、慧くん。見たかったのに閉じないでよ」
「ダメです。見ないでください」
「えー、どうして? 見たい!モデルには、どんな風に描かれてるのか見る権利があるでしょ」
「本当に、ダメです。油絵として完成したら見てください」
「もう。頑固だなぁ」
頑なに拒む慧に、楓が唇を尖らせた。