白に染まる、一滴の青。
「クロッキー帳を見られるのは、裸を見られるのと同じです。恥ずかしいので、これだけは見せられないです」
慧の必死な説明で、楓は声を漏らして笑い出した。
「ふふ、裸見られるのと同じなの? そりゃあ、見ちゃいけないか。ごめんごめん」
両肩を震わせながら笑い続ける楓。諦めてもらえたことにひとまず安堵の息を漏らした慧は、こっそり彼女に見えない位置でクロッキー帳を開くと鉛筆を握りしめた。
「この間、一枚描き終えてたと思うけど、夏休み中に何枚描くの?」
「描けるだけ、描きたいです。絵を描くのは日課みたいなものですけど、こんなに筆が走るのは初めてなので描けるだけ描いておきたいです」
慧は、完成した一枚目の絵を彼女に見せていなかった。
一枚目の絵が完成した時、「夏休みが終わる時に全部見せます」と楓に言うと、彼女はつまらなそうにしながらも渋々承諾してくれた。
こんなに筆が走ることなんて、この先二度と無いかもしれない。本多の言った〝美大生の青春〟とやらを、慧は自分の納得がいく形で完成させたかったのだ。
彼女から受けた感想に良くも悪くも影響されないように、自分の手で青春を創り出したい。そうすれば、本当に何か変わるような気がした。