白に染まる、一滴の青。
白いブラウスと膝よりも長い丈のあるワインレッドのスカート。その衣類から覗く細い手足からは、華奢な体つきである事は一目瞭然だった。
彼女が一歩、足を踏み出すとこちらへと向かってくる。慧は、また心臓を大きく波打たせると、ただその場で身動きすら取れずに彼女の次の言動を待っていた。
「何か用でしたか?」
慧の目の前で立ち止まった彼女が、まっすぐ目を見てそう言った。
視線を一切そらさず返事を待っている彼女に、妙なプレッシャーを感じ始める。しかし、返事を返さずに黙り込むわけにもいかない慧は、固く紡がれていた唇をゆっくりと離した。
「あの……モデルに、なってもらえませんか」
一瞬、時が止まったような気がした。
慧の唐突な一言により目を見開いた彼女のリアクションは納得のいくものだったが、不思議なことに慧自身が一番自分の発した一言に驚いていた。
確かに、彼女のことを描きたいと思ってしまった。強くその衝動に揺らされたのは事実だったが、慧が普段、こんな風に感情的に動くようなことは全くない。
常に理屈っぽく物事を考え、周りの目を気にしてきた慧がどうしてこんなことを彼女に提案したのか。それは、慧にも誰にも分からない。だけど、美大生としての慧の〝青春〟は、この瞬間に動き出したのかもしれない───。