白に染まる、一滴の青。
こんな引っ込み思案な自分の懐に、器用に足を踏み込んできた本多。そんな彼は間違いなくクラスの人気者ポジションだったと思っていたし、まさか、その想像が間違っているとは一ミリも思わなかった。
しかし、彼は慧と同じように友達が少なかったと言うものだから慧は驚きを隠しきれず口をあんぐりと開き続ける。
「高校を卒業して上京して、この大学で岩本と同じように絵画コースを選択してほんまにずっと絵ばっか描いてた。そんな俺が四回生になった春に、同じコースにおった一回生の後輩のことを好きになって、自分から告白までしたわ」
懐かし、と言ってはにかむ本多の笑顔が、楓の表情と重なる。
誰かを愛おしく思う人は、こんな風に優しく笑うのか。慧は、自分の知らない未知の領域に、ほんの少しだけ興味を沸きたてられると口を開いた。
「その人が、先生の初恋の人ですか?」
「初恋か。まあ、せやな。そうなるわ。初恋かつ、最後の恋やな」
「え? 最後っていうことは……」
〝今もその人が好きなんですか?〟と、聞こうとした慧に優しく微笑みながら頷く本多。それが、慧の聞こうとした質問への返答だった。
「一応、婚約者」
「えっ」
「初恋の人が婚約者やなんて、最高にドラマチックやろ?」
本多は言葉の通り、その初恋の相手と婚約をしているらしい。その事実に、慧は再び驚き目を見開いた。