白に染まる、一滴の青。
「小笠原も来てくれると思ってていい?」
「うん。日曜日でしょ? ちゃんと行くよ」
「そうそう。せっかく来てもらうんだったら良いところ見せなきゃな」
「あはは、気張りすぎて空回りしないでよね」
アトリエに向かう廊下の途中。突き当たりを左に曲がろうとすると、楽しそうに二人並んで歩く楓と大野がいた。
二人の姿が目に入ると、慧は咄嗟に引き返して壁際に隠れながら息を潜めた。
別に隠れる必要なんか無かったのかもしれない。だけど、親しげに話す二人の側をどんな顔をして通り過ぎたらいいか分からなかった。
恐らく、二人はバスケットボールの試合について話している。初めて大野がアトリエに顔を出した、あの日の話だろう。
しばらく息を潜めていると、慧は自分が今までにない感情を抱いていることに気がついた。
楓に〝大野くん〟と呼ばれた彼は、本当にただ同じコースを選択しているだけの同級生なのか。ひょっとして、彼女の好きな人は彼だという可能性はないだろうか。
興味とも好奇心とも違う。黒くて、もやっとした、ただ彼と彼女が特別な関係でないことを願う醜い感情が顔を出してくる。