白に染まる、一滴の青。
二ヶ月弱の長い夏休みも、気がつけば一ヶ月が経とうとしていた。
楓の絵はもう既に三枚の油絵が完成し、一番に描きたいものも決まっていた。それは、誰にも見られぬようにと一人の時間にゆっくり描き進めていたけれど、あと一ヶ月もあれば完成するのではないかというところまで目処は立っていた。
毎日通っていたアトリエも、週に二回。月曜日と金曜日の二日間に減らし、都合のつく時にだけ楓に来てもらうようにしたけれど、今のところ楓が来なかった月曜日も金曜日もない。
彼女は、必ず週に二回。〝愚痴〟を言いに慧のもとへやって来る。
「今日は来てたんか」
今日は週の真ん中、水曜日。
解放されたアトリエの扉から顔を覗かせたのは、眠そうな顔をして瞼を擦る本多だった。
「おはようございます。最近は週に二、三日だけ来てます。月曜日と、金曜日と、あとはその日の気分です」
「はは、曜日固定してるんか」
「はい。モデルになってもらっている子と連絡を取る手段もないので固定した方が良いかなと」
本多は大して興味もなさそうに「ふうん」とだけ返事をすると、窓際の壁に裏返し立てかけているキャンバスへ目を移した。
「見てもええ?」
そう言った本多に、慧は一度だけ深く頷く。すると、本多はゆっくりキャンバスへ近づくと指先をそれへ伸ばした。