白に染まる、一滴の青。
「先生の言った〝美大生にとっての青春〟、何とか僕も味わえそうです」
「それはええ事や。岩本が、こんなにも前のめりになって絵を描いてるのは俺も嬉しい」
本多は、本当に嬉しそうに笑って窓際にもたれかかる。
「あとの二枚も小笠原先輩を描いたんです。でも、一番に描きあげたい先輩はまだ作成途中で、それは全てをぶつけるつもりで描こうと思います」
それが、きっと僕にとって青春のすべてになる。慧は、そう確信していた。
あの日、アトリエ前の廊下で初めて出会った楓。彼女のいたあの景色は、今までに見たどんな景色よりも慧の心を動かした。
今思えば、内気で弱虫な慧のことを変えた彼女は、あの日から既に慧にとって特別だったのかもしれない。
「こんな熱い岩本見たん初めてやわ。特別なんやって、絵見ただけでも分かる。そんな風に思うて貰えて、きっと彼女は幸せやと思うで」
「それは……どうなんですかね。小笠原さん、他に好きな人がいるので」
本多の言葉に、慧は少しだけ首を傾げた。楓のことは、ただ、一方的に特別だと思っている。それだけの話だった。
楓は慧の気持ちなんて知る由もないし、この気持ちを知られたってお互いに気まずくなってしまうだけ。メリットなんてきっとない。
彼女が想う人は、この世界でたった一人。そこに慧の入り込む隙なんてあるわけないことは痛いくらいに分かっているのだから。