白に染まる、一滴の青。
「他に好きな人がおるから嬉しくない、なんて、本人に言われたんか?」
「いや、それは言われてないですけど」
「せやろ? 好きな人がおったって、誰かに大切に思うてもらえるんは嬉しいもんやろ。それが、この不器用で普段は人に興味のなさそうな岩本なら尚更嬉しいはず」
本多が悪戯に笑う。
〝不器用〟だとか〝人に興味のなさそうな〟だとか。失礼な単語を並べているけれど、不思議と言われて嫌な気持ちにはならなかった。
慧は、自分が不器用であることも、人に興味は然程ないということも自覚済みだったし、それだけ自分のことを見てくれている本多には寧ろ感謝の気持ちしかなかった。
「先生って、凄いですよね」
「ん? なんや急に」
びっくりしたわ、と言って顔に皺をつくる。
彼は、本当によく笑う大人だと何度も慧は思った。苦しいことや悲しいことなんて存在しないかのように、いつも上手く笑っている彼が感情を乱されることなんてあるのだろうか。
「よく人の事を見てる人だなって思います。こんな僕のことも、こうして考えてくれるのは先生くらいです」
慧は、この大学へやってきてから何度も本多に救われてきた。
人と関わることを避けてきた慧だから、同級生に嫌がらせを受けることがあったとか、そういうわけではなかったけれど、心の奥底で、こうして自分の話を聞いてくれる存在を必要としていた。
慧にとって本多は、〝大学〟という小さな社会の中で必要としていた存在になっていた。