白に染まる、一滴の青。
「岩本は、大学生の頃の俺によく似てる気がする」
「大学生の頃の先生に、ですか」
本多は岩本の言葉に、口角を上げた。なにかを懐かしむように柔らかく微笑んだその表情が、岩本の言葉に対する返事のようだった。
「絵ばっかり描いてて、内気で、人付き合いも自己主張も下手な美大生。やけど、実は分かりやすくて素直で、結構良いやつ」
「〝良いやつ〟って、それ、自分で言いますか」
本多の言ったことは、受け取り方によっては悪口のようにも聞こえたかもしれない。だけど、本多がそんなつもりで言ったわけではないことくらい慧はよく分かっていた。それよりも、自ら自分のことを〝良いやつ〟だと言った本多の言葉を指摘すると、彼は頬に皺を作りながら笑いだした。
「でも、間違いちゃうやろ? お前はええやつやし、俺もそれなりにええやつ」
同じやんか、と言ってまた皺を作る。
彼が自分のことを迷いなく〝ええやつ〟だと言ったことが嬉しかったのか、単純に本多の根拠のない決めつけのような言葉が面白かったのか。笑っている本多につられるようにして、慧も口角を上げた。