白に染まる、一滴の青。
「四枚目かぁ」
楓と約束をしている金曜日。
今週も、しっかり週に二回このアトリエにやってきてくれた彼女は、窓際に立ちながら小さく呟いた。
「この夏休みの期間に四枚も描くなんて、周りの子よりも多い方なんじゃない? すごいよね」
「僕も普段、こんなには描けないです。去年の夏休みはコンクール用の絵一枚と、近所の猫の絵を一枚描いただけです」
「そうなの? 今年はコンクール用の絵は描けた?」
楓の一言で、慧はハッとした。
「コンクール用の作品、今年はまだ描いてなかったです。今、思い出しました」
大学生以上が対象の夏の絵画コンクール。それに、慧は毎年応募をしていた。
いつも良いところまでは行くけれど、大賞は疎か特別賞も貰えない。ただ、毎年審査員をしている画家に、昨年一度だけ絵に対するコメントを頂くことがあった。
〝何か、足りないピースがあるように感じる。それを埋めれば、彼の絵はもっと生きてくる〟
未だにその〝足りないピース〟とやらは分かっていない。だけど、たぶん、本多の言ったものと同じことなのだろうと思う。