白に染まる、一滴の青。
「今思い出しましたって!慧くんってしっかりしてるように見えて時々、抜けてるよね」
けらけらと笑いながら慧を見る楓の、薄くなった瞳や大きく開かれる薄い唇。慧は、彼女がこうして笑っているところを見るのが一番に好きだった。
彼女が、自分の名前を呼ぶたびに。笑うたびに。それから、彼女のことを描くたびに。慧は、たまらなく彼女に惹かれていった。
だけど、そんな彼女に〝好きな人〟がいることはもちろん分かっている。その相手が大野と呼ばれたあの人なのかは、まだ分からない。
「そういえば、この間、駅前で芸能人みたいに雰囲気のある男の人を見たんだけどね。本当に、すごく綺麗な顔をしてた」
「芸能人なんじゃないですか、それは」
「そうだったのかな? それは分からないんだけど、すごくキリッとした顔で、素敵だったな。見てるだけなのにドキドキしちゃった」
両頬を手のひらで包み、今にもとろけてしまいそうに瞼を下ろす彼女の表情はとても幸せそうで慧はなんだか複雑だった。
「ドキドキって、その人に恋でもしたんですか?」
そりゃあ、自分のようにそこら中に歩いていそうな普通の男よりも、キラキラした格好の良い男の人が良いに決まっている。そんなことは分かっているけれど、それなら自分みたいな男は報われないじゃないか。
そんなことを思っていた慧の言葉を聞くと、楓はまたけらけらと笑いだした。
「あはは、違うよ! 外見だけではそうはならないよきっと。一目惚れ、ってよく聞くけど、結局はその人の中身次第だからね。外見だけじゃあ分からないことの方が多いでしょ?」
「それは、そうですけど」
「まぁ、慧くんも好きな人が出来たら分かるよ。外見とか、肩書きとか。そういう条件みたいなもので恋はできないこと」