白に染まる、一滴の青。
「……知ってます」
楓の一言が悔しくて、つい、慧はそう声を漏らしてしまった。
確かに、好きな人なんて数日前までいなかった。楓も、この数日で慧に好きな人が出来たとは想像出来なかったのだろう。
彼女は、間違っていない。だけど、〝恋〟を知らない慧は、彼女に子供扱いされているような気がして悔しかったのだ。
年齢だけではなく、慧の知らない感情をきっとたくさん知っている楓は間違いなく慧の先を歩いている。彼女の隣に並べるようにならなければ、到底彼女の恋人になるなんて無理な話だ。
まず、自分が彼女の恋人になりたいのかと問われれば、それははっきりとは分からない。だけど、自分以外の誰かが隣に並ぶのは嫌だ。それだけは慧の中ではっきりしていた。
「えっと、慧くん」
〝どうしたの?〟と言わんばかりの顔で、心配そうに慧を見る楓。
慧は、ぎゅっと歯を食いしばった。
「ちゃんと、僕も好きな人がいます。できました」
「え?」
流石に、分かるだろう。この夏休み、僕と一緒にいたのは彼女だけなのだから。
そう思いながら必死に言葉を放った慧は、筆を握る手に力を込めた。しかし。
「待って、そんなの聞いてない!全然、仲の良い女の子がいるとか、そんな話してくれなかったじゃん! クラスメイト? それとも、幼馴染とか?」
楓は、目をキラキラと輝かせながら丸椅子までやって来ると、そこに腰をかけ前のめりになった。
どうやら、自分のことだとは一ミリも思っていないらしい。