白に染まる、一滴の青。
「同じ大学の女の子です」
「そうなの? それなら、私も会ってるかもしれないね。いいね、青春だ」
同じ大学だというヒントを出したって自分だとは全く思わない楓に、慧は安心と少しの不満を感じた。
「好きな人がいることが青春なら、先輩だって青春してるじゃないですか」
彼女は、慧の〝青春〟を羨ましがった。まるで、自分は〝青春〟をしていないとでも言うように。
今の慧のように〝好きな人〟がいることが青春だと言うのなら、それは楓にだって該当するはず。それなのに、どうして彼女は少しだけ泣きそうな瞳をしているのだろう。
「あはは、それもそうだよね。うん。そうなんだけどね、なんていうか、私の恋は絶対叶わないことを知ってるからなのかな。ちょっと、そういうのとは違うんだ。私も、私の恋も、〝青春〟って言葉みたいにキラキラしてない。それとは程遠い。快晴の空みたいに綺麗な青じゃなくて、もっと、深くて濁った青なんだと思う」
少しだけ、慧には彼女の言いたいことが分かるような気がした。
時々、彼女の見せる熱の篭った哀しい瞳や、儚げな表情。それは、なんというか、色で例えるなら群青色に近かった。
決して透き通ることのない、濃く、深い青。
普段、何の汚れもない白のように無邪気に笑っている。そんな彼女の内にある、濃く、深い青。
きっと、そこに本当の彼女がある。
いつか、その青に触れることができるのだろうか。
彼女を悩ませるその感情を、自分の手で軽くしてあげることができるのだろうか。
もっと、知りたい。もっと、近づきたい。もっと、もっと、手を伸ばして彼女の中にある、その青に触れたい。