白に染まる、一滴の青。
楓が想いを寄せる人とは、一体誰なのか。慧は、そんな事を考えながら数日を過ごした。
今日は、週の真ん中に当たる水曜日。慧は、生徒三人しかいない静かなアトリエの窓際で、初めて出会ったあの日の楓を描いていた。
アトリエ前の廊下。その窓から何かを眺めて涙を流していた楓。あの忘れることのできない景色も、もう完成間近。
慧は、この絵の完成が待ち遠しくて、今までに類を見ないほど胸を躍らせていた。
「お、慧くん来てる」
「え? 先輩?」
名前を呼ばれた気がして振り返る。すると、そこには今日来るはずのない楓がいた。
何の遠慮もなく、当たり前のようにアトリエ内へ足を踏み込んだ楓。慧はそんな彼女の様子を見ると慌てて目の前にあるキャンバスを裏向けに壁に立てかけた。
「何描いてたの?」
「あ、えっと……コンクール用の絵?」
「あ、そっか。コンクール用の絵、まだ描いてないって言ってたもんね。描き終わったらまた見せてよね」
私、一階に用事あるから行ってくる。
そう言って、笑顔で手を振った彼女は、どうやらモデルをするためにここへ来たわけではなかったらしく、慧に背を向けると嵐のように去っていった。