白に染まる、一滴の青。
彼女が去っていった扉に目をやり、少しだけぼうっとしていると、そんな慧の視界に誰かが映り込んだ。
「岩本くん、小笠原先輩と知り合いなの?」
丸椅子に腰をかけたまま、視線を少し上げる。すると、そこには同じ絵画コースを選択した同級生、生田穂花(いくたほのか)がいた。
黒髪のボブヘアーがよく似合う色白の彼女は、時々、こんな風にして唐突に慧に話しかけてくることがある。
流石に最初は、返答の仕方や、どうして自分に話しかけてくれるのかを考えては悩んでいたけれど、最近では普通に話せるようになってきた。
「うん。色々あって、今、モデルをしてもらってるんだ」
「そうなんだ。岩本くんが異性をモデルにした絵を描くなんて、ちょっと気になる」
見てもいい? と、言わんばかりに壁に立てかけてあるキャンバスに視線を向ける生田。
「そこの三枚なら」
慧は返答に一瞬困ったけれど、既に完成している三枚だけは彼女に見せることにした。
ゆっくり、楓をモデルにした一枚目のキャンバスを裏返す。しばらく、まじまじと見て、また二枚目。それもゆっくり眺めた後、生田は最後の三枚目を裏返した。
「……凄い」
零すように、そう呟いた彼女がゆっくり慧の目を見た。
「これ、今までのとは全然違うよね。良いと思う」