白に染まる、一滴の青。
「美味しい」
とろけたように目尻を下げ、慧の目の前で楓が幸せそうに笑う。
「良かったです。飴くらいなら、またいくらでも持ってきます」
決して自分の力ではない。飴の力。そうとは分かっているけれど、こんな風にして目の前で笑ってもらえるなら、いくらだって、何だって彼女に与えたいと思ってしまう。
彼女のことを好きなんだと自覚したあの日から、慧は驚くほどのスピードで彼女に惹かれていた。
「本当に? 嬉しい。でも、大学生にもなって飴で喜ぶなんて子供だな、と思ってるでしょ?」
「いや、そんなことは思ってないです」
「嘘だ。絶対思ってる!」
「本当に思ってないです!寧ろ、良いと思います。先輩のそういうところ、僕は好きです」
勢い余って発した言葉にハッとする。
今まで人を対象として発したことなんてない〝好き〟という好意を表す言葉。
そういうつもりじゃないと訂正をすることだって出来たけれど、訂正をすれば嘘になる。女性として、ではなくとも楓のそういう素直なところを好意的に感じていた慧は、訂正はせずそのまま口を噤んだ。