白に染まる、一滴の青。
「今の、素直に嬉しいなぁ」
楓が、両手で自分の口元を覆った。
「ずっと、大人になりたくて、ずっと頑張って背伸びしてた。そうじゃないと、振り向いてもらえないから。だけど、今初めて、ありのままの私が認められた気がする。自分ですら認めてあげられなかったこの自分を」
俯き加減で、悲しそうに言った彼女の言葉。
〝大人〟だとか〝背伸び〟だとか。ワードの一つ一つが、彼女の好きな人が本多であるという事実を慧に突きつけてくる。
「不思議なんだけど、まだ出会ったばかりなのに慧くんの前では素直な自分でいられるんだ、私」
「他の人の前では、そうじゃないんですか?」
「他の人みんなに対してだけ完全に作った自分で接してる、っていうわけでもないんだけど。でも、慧くんの前にいる私が一番私らしいというか。自分にとっても好きな自分なの」
「それじゃあ、好きな人の前に立っている先輩は……その自分は、自分自身の好きな自分じゃないんですか」
慧の言葉に、楓は苦笑いを浮かべながら頷いた。
いつもと違う、歪んだ、無理やり作り上げたような笑顔。そんな彼女の顔を見たかったわけではなかった慧は自分の興味から投げかけた質問を少しだけ後悔した。