白に染まる、一滴の青。
「〝大人〟っていう同じ類に本当の意味で入るために、我儘なんて言わないし、世論を気にしながら聞き分けの良い落ち着いた女性を演じてみたりするの。もちろん、本当の私はこんな風にして自由に生きたいって思考を持ってるんだけど。でも、自分を演じることで彼と同じ場所に立てるなら。彼を救えるなら、そんなの全然苦痛じゃない」
何かを確認するように、少しだけ視線を窓の外に向けてからまた元に戻す。
きっと、今、彼女は喫煙所に本多がいるのかを確認したに違いない。そう、慧は確信していた。
「先輩は、本当に好きなんですね。その人のこと」
敵わない。そう、分かっている。
あの儚げで、愛おしさの含まれた表情。彼女にそんな表情をさせることのできる人が、本多だと知った瞬間にそう分かった。
慧自身、彼には上手く心を開かれ、心地よく懐に足を踏み込まれた。今では慧にとっても唯一無二の存在だ。
まるで決まりごとのように、何の抵抗もない。光のような速度で本多に惹きつけられていた慧だからこそ、楓が彼に惹かれたことも誰よりも理解できた。