白に染まる、一滴の青。
「そういえば、モデルになってもらってるって言ってた先輩とはどうなんだよ」
「どうって、おかげで楽しく満足のいく絵を描けてるよ。全部、自己満足だけど」
「そういうことじゃなくてさ。岩本が直々にモデルを頼み込むなんて、なんか、その先輩は特別なんじゃないの? って話」
きっと、青山が言っているのは、慧が楓のことを〝好き〟なのではないかということ。
いつも、なかなか鋭いところを突いてくる青山に慧は参ったなと思いながら口を開いた。
「そう、なんだと思う。というか、多分そう。だけど、先輩には好きな人がいるから関係は変わらないと思う」
「好きな人がいるからって、別に付き合ってるわけでもないんだろ?」
「まぁ、それはそうなんだけど」
「何か、訳あり?」
青山に対してどう返答をするべきかが分からず、慧は「うーん」と声を漏らしながら何と説明すべきかを考えた。
「自分が好意を寄せている人の好きな人が、絶対に自分には敵わない人で、尚且つ、自分にとって唯一の心を許せる人だった時って、青山ならどうする?」
簡潔にまとめた例え話。それを聞いた青山は、悩むことはなく口を開いた。
「別に、どうもしないかな。手に入れたければ、ただ頑張って振り向いてもらうだけ。敵わないとか、そういうのは先輩本人が決めることだろうし、人間の心って変わる時は簡単に変わるからさ。相手もそうだし、それは自分だってそう。だから、好きでいる間は、ただ好きでいることに素直で居たいと俺は思うよ」
あまりにも真っ直ぐに答えた青山に、慧は今の質問が愚問だったように思った。
「ちょっと、本気で答えちゃったし恥ずかしいな。でも、何かあれば何でも相談のるし言って来いよ」
「ありがとう」
照れ臭そうにはにかんだ青山が、慧の右肩を叩いた。