白に染まる、一滴の青。
「先生」
慧は大学に着くと、アトリエよりも先に喫煙所に向かった。予想通り、喫煙所で煙草を吹かしていた本多は慧の姿を確認すると、スタンド灰皿に煙草の先を押し付ける。
「どないしたん」
そう言って、灰皿に先を押し付けた煙草から手を離した。
「えっと、コンクールの絵についてなんですけど」
「ああ、せやな。その話は、俺もしたかった」
本多は〝ついて来い〟と言うかのように視線をアトリエのある方向に動かし、歩き出した。
「コンクールに出す絵、決まってるんか」
斜め前を歩く本多が前を向いたままそう言った。
「それが、まだなんです。本当に忘れていて、コンクールのことは考えずに絵を描いていました」
「はは、そない描くのに夢中になってたんか」
「そうなんですかね」
「せやと思うで。絵、見ただけでいつも岩本が描く絵と違うって分かったからなぁ」
本多は、そう言って嬉しそうに笑った。
「岩本は、あの絵をコンクールに出すつもりはないんか?」
笑って薄くなっていた瞳が、大きくなる。本多は、単純に疑問を持っているような表情で慧を見た。
「正直、出来栄えというか……個人的な手応えは今までの比じゃないです。自己満足ですけど、描いてて凄く楽しくて。先生の言ったように、身体と心で、全力で描けたんじゃないかと思ってます」