白に染まる、一滴の青。
────〝身体と心で、全力で。自分にとって唯一の作品を描く。美大生にとって、それ以上の青春はないやろ〟
夏休みに入って間もない頃、本多が言った言葉を思い出した。
あの時は、自分がそんな絵を描けるなんて夢にも思わなかったし、〝青春〟なんて、輝きすぎていて自分には到底縁のない言葉だと思っていた。
だけど、今は違う。これが本当に〝青春〟だと呼べるものなのかは分からないけれど、たしかに慧は自分にとって唯一の作品を描きあげようとしている。
初めて楓に出会った、あの日の景色。あれが、唯一の作品になることは間違いない。そう、慧は確信していた。
「自分の個人的な情ばかりが滲み出ている作品を、エントリーしてもいいのか。エントリーして、どう評価されるのか。それが、少し怖いです」
コンクールのことなんてそっちのけで描いていた、自分にとって唯一の作品。それをエントリーしていいのか、と思っているのも嘘じゃない。だけど、〝怖い〟という気持ちが間違いなく慧の気持ちの中で強く濃い感情だった。
自分にとって唯一だからこそ、周りに評価されないことが怖かった。
評価されなかったのなら、もう絵を描くことがトラウマのようになるかもしれない。一体、自分が何を描けばいいのか、迷走してしまうかもしれない。
それから、自分にとっての〝美大生としての青春〟。それは、泡沫のように消えて無くなってしまうだろう。