白に染まる、一滴の青。
「作品を創るって、手先筆先の技術とセンスだけでも十分上にはいける。せやけどな、人の心を本当の意味で動かせる作品ってのは、作者自身の気持ちが乗った作品だけやで。そんな、人の心を動かせる作品をエントリーしたらあかん理由なんてないやろ。それに、岩本が初めて情を込めて描いた作品、見せつけてやったらええと思うで。もっと自信持て」
本多の右手が慧の左肩に触れる。
彼の言葉は、迷っていた慧の背中を強く押してくれたような気がした。
「ありがとうございます。ちょっと、エントリーする方向で考えてみます」
「そりゃあ、楽しみがまた増えるわ」
自分にとって唯一の作品が評価される。
それは、慧にとって怖いことだったけれど、本多の一言により試してみたいという気持ちが生まれたのも事実だった。
前向きにエントリーをする方向で考えることを決めた慧の言葉に、本多は嬉しそうに歯を見せて笑った。