白に染まる、一滴の青。
本多とアトリエまでやって来ると、アトリエ内では既に六人の男女がキャンバスと向き合っていた。
「最後の追い込みってところやな」
夏休みも、気がつけば残り二週間を切っていた。毎年終盤は、夏休みの宿題を慌てて片付ける小学生と同じように、アトリエも賑わい始める。
「今日は、一人で描くんか?」
「はい。そのつもりです。火曜日なので、先輩は来ないと思います」
「そうか」
遠回しに楓が来ないことを確認した本多は、慧の返事に少しだけ安堵の息を漏らした。
一体、二人はどういう関係なのか。慧には、それが気になって仕方がない。だけど、そんなことを聞く勇気は到底なく、今日もただ本多の顔色を伺うだけだった。
「岩本くん、コンクール用の絵は何を描いてるの?」
本多がアトリエから出ていってからしばらくすると、キャンバスに筆をおいた慧のもとに生田がやって来た。
「えっと、」
「小笠原先輩?」
誰を描いているのかを答えるのを一瞬ためらった。以前、生田さんにも見せた三枚でさえ全て彼女をモデルにしていたというのに、コンクール用のものまで彼女がモデルだと知ったら流石に引かれるかもしれない。そう思ったのに、生田は容赦なくその事実を当てて見せた。