この言葉の、その先は、
俺と、江川と、乙ちゃんと、あいつ
5年前、そこそこ名のある会社のそこそこ大きい部署に配属されたのがこの4人
所謂ストレス社会と言われる昨今において、同期とはなんと心強いものか
入社式であいつを見た時、素直に嬉しかった
だから真っ先に話し掛けた
彼女は変わらない笑顔で俺を受け入れた
あの頃よりもプラス4年分の余裕を持って
彼女との初対面は高校2年生の春
珍しく高校の途中から転入してきたあいつは、すごく"綺麗な人"だった
でも、高校生の少年少女からすれば綺麗はモテる条件ではなく、むしろ近づき難い人だった
例にも漏れず、俺も当時は彼女とは距離を取っていた
最初こそ転入生という物珍しさから、彼女の周りには絶えず違う人間が居た
でもそのうち彼女を置いてみんなは自分の定位置へと戻っていった
置いていかれたのは彼女の方
いつからか彼女は、一人が当たり前、みたいな人間になっていた
正直可哀想だなーとは思ってはいたけど、俺だってお年頃の男子なわけで、そんな彼女を遠目に眺めるだけだった
そんなこんなで時が経ち、彼女の真っ白な首筋が高く上げたポニーテールからチラリと見えた頃、カレンダーを見れば夏が近づいていた
夏近くともなれば、俺が所属してるバスケ部も、どこの部活も、インハイ予選やら何やらに向けて部活に明け暮れる日々で
そんな日常に少し疲れていた俺は、休憩時間にちょっと離れた水飲み場まで遠回り
ブラブラと2年生の教室がある階を歩いていた
いつもは通らないんだけど、今日だけ特別
夕方6時になってもまだ明るい廊下を一人歩いていた
この時間にもなれば、大体の教室は締め切られているのだけれど、俺のクラスの扉だけは大きく開いていた
なんとなく中を覗けば、一番窓際、カーテンに隠れるようにして佇む人影
見えるのはカーテンから下のスカートと真っ白な足
窓が開いているのか、ひらひらと揺れるカーテンの向こう側、逆光で映された人影が儚く揺れていた
興味と言うよりも、無意識
そっと足音を消して、その人影に近づいた
動かない人影
風に揺れるカーテン
カーテンの端っこを摘んで、一気に捲った
一瞬見えた、ポニーテールと真っ白な首筋
その刹那、振り向いた顔は、俺が知っているそれよりも随分と幼く、
あ、白目がちょっと青っぽいって、初めての発見
俺の中に蹲っていたあいつに向ける何かが、そっと音を鳴らし始めた