この言葉の、その先は、


恋愛の条件

聞かれてしばらく考えた

別に難しい話ではない


カッコいい人

頭がいい人

優しい人


恋愛っていう概念を単純に捉えていた頃ならそんな風に答えていたと思う

でも私だって随分と色々経験してしまった

無意味な見栄や不必要な建前が重りとなって自分にくっ付いている

それらを取っ払うことくらい簡単なこと


でも私だって大人

それらはもう世の中の暗黙の了解ってことくらい知っている

そんな話


だから




「私より先に、死なない人」




私の恋愛の最低条件

見えない未来のずっと先の話

つまりは確証のない条件

叶えようのない条件


絶対的な収入だとか不変的な信頼だとか以前の話で、それ以上に難しい話


成仁さんは私の言葉に頷いた後、困ったように額をかいた


あー自分のダメな所

条件どうのではなく、こうやって無闇に人を困らせるの

自己嫌悪というか何となく嫌だなって所に落ちる直前、成仁さんは私に真っ直ぐな視線を向けた


「それが約束できれば、私を貴方の恋愛対象として貰えるんですね」


その言葉に驚いた

そしてその真っ直ぐすぎる視線に、言葉に

私の心がミシミシと音をたてた



一人分でいっぱいいっぱいだった心の中の隙間

いつのまにかその隙間が当たり前で

誰かがいない心が当たり前で


友人に言われた

誰かが入れる心の隙間を持っていろって

隣に誰かが入れる心の余裕

自分にはないなって笑って誤魔化したけど



今日初めて会った人

そんな成仁さんの心に触れて、言葉に触れて

私の心の中のほんの僅かな隙間

そこに彼はスルスルと入ってきて、ジワジワと侵食してきて


ズルイと思った

自分は単純だと呆れた



そして



思ったよりも自分は寂しかったんだなって



相対した自分を見つめて、悲しそうな顔をしている自分に気付いた



顔を上げろって



笑って言ってあげた
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