この言葉の、その先は、
それからは私から成仁さんへの質問タイム
別に興味がないとかではないけど
お仕事のことだったり、趣味のことだったり
当たり障りのない質問をいくつか
私たち、本当にお互いに何も知らないんだなって思いながらも、純粋に彼のことを知りたいとも思った
彼が見せてくれた、伝えてくれた思い
それを無駄に出来るほど私は偉くもないし、彼のことを知っている訳でもない
無知ならそれで良い
そこから、どれだけ私たちがお互いを知れるかの問題
今そのスタート地点に、私たちは居る
私の単純な質問にも成仁さんは嫌な顔一つせずに答えてくれた
むしろ1聞いたら10返ってくるくらい
口下手なのか、一つ一つの質問にすごく丁寧に
尚且つ臆病に
私がその言葉に笑えば、安心したように優しく笑って
2人の間の雰囲気は決して華やかでもないし、盛り上がってるわけでもないけど
彼が作り出す独特な世界観は案外嫌いじゃなかった
好きなものの話になって、彼は某アメコミ映画が好きとのこと
自分もその映画が好きでひと盛り上がり
その流れで最近公開中のアメコミ映画の話になった
特に考えもなしに今度見に行こうかなって言えば、成仁さんは少し慌てたように誰と?って聞いてきた
一人でって答えたらそれこそ慌てたように
「どうしてもですか?」
「一人がダメなんですか?」
「いやそうじゃないけど…」
珍しく言葉を詰まらせて、視線は下に
ようやく顔を上げた彼は、凄く真面目な顔をして
「貴方が一人っていう空間に慣れてしまうと、私はどうやって貴方の空間に入れば良いのか分からない」
凄く照れ臭そうに、でも真っ直ぐに見つめながらそう言った
その言葉に聞き覚えがあった
自分の心がまたミシミシと
彼の表情に?言葉に?
理由は分からないけど、彼が見せてくれた善意と好意
そっと踏み出してくれた一歩目
だから私も踏み出してみようかと
案外、臆病だった心が自分にゴーと言った
「じゃあ、今度一緒に観に行きませんか?」
自分から申し出た所謂デートの約束
デートの誘いは男からなんて勝手に決めていたけど、こんなに甘酸っぱい若さの塊
良い歳してって恥ずかしくなりながらも、目の前の彼が嬉しそうに微笑んだ
それだけで、まあ良いかって
ここが、自分達の始まりなんだって
案外悪くもないかもって
気付けば成仁さんに、良い人って言葉以上の謳い文句がくっ付いていた