*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
1. プロローグ~“祝?”初同棲~
「杏奈、持っていくのはこれだけ?」
「うん。それで全部だよ。」
五月に入って最初の公休日の今日、私は借りているアパートに修平さんと来ていた。
先月このアパートの隣にある一軒家の火事の被害を受けた私の部屋は、今でも無残な姿のままだ。
一か月近く経つからさすがにもう焦げ臭い匂いはしないけれど、部屋の至る所が焦げ跡や煤で黒いし、貰い火を防ぐ為の消火活動の水でびしょ濡れになったせいで、部屋が湿気でカビ臭い。
そんな酷い状態であるけれど、就職してから一人暮らしを始めたこの部屋を去ることに、やっぱり寂しさを感じてしまう。
「杏奈…大丈夫?」
部屋から持って出る荷物を持って、隣に立つ私を心配そうに見下ろしているのは、瀧沢修平さん。
少し前からお付き合いを始めた男性で、私にとっては初めての恋人。
180㎝のスラリとした長身の彼は、モデルみたいにスタイルが良くて、人気俳優顔負けの綺麗な顔をしている。
対して私はというと、いまだに学生に間違えられることもしばしばある丸顔の童顔で、どちらかというと地味。
チャームポイントだかウィークポイントだか良く分からない茶色がかったくせ毛は、肩下まで伸ばしているけれど、今は邪魔にならないように低めのポニーテールにしている。
そんななので、素敵すぎる修平さんが平々凡々な私の恋人なのか、私自身未だに理解できていない。
「…うん、大丈夫だよ。ありがとう、修平さん。」
隣に並んだ彼を見上げて微笑む。
上手に笑顔を作れなかったことは、優しい彼にはお見通しで、そんな私の頭を優しくポンポンと軽く叩いて励ましてくれた。
今日、五月一日をもちまして、私宮野杏奈は、正式に瀧沢修平さんと一緒に暮らすことになりました。
【初同棲】スタートいたします。
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