*続*恩返しは溺甘同居で!?~長期休暇にご用心!
途中ですれ違う先輩への挨拶もそこそこに、バックヤードの廊下を小走りに駆け抜ける。
職員用出入り口の重い扉を押して勢いよく外に飛び出すと、初夏の西日が目に刺さって、反射的に顔を逸らせた。
「お疲れ様、杏奈。」
耳に届いたのは、ずっと待ち望んでいた声。
心臓がきゅっと音を立てて、切なさと喜びに打ち震える。
眩しさに慣れるのと同じスピードで、ゆっくり、ゆっくりと顔を上げると、ここ数日間ずっと頭から離れなかったヒトが立っていた。
「っつ、!」
伝えたいことが次から次に湧き上がって来て、喉でつっかえたみたいに声が出ない。
溢れそうなほどの想いは、私から言葉を奪う。
出ない声とは裏腹に、涙が勝手に滲み始める。
黙ったまま立ちすくんだ私のところまで、彼はゆっくりと近付いてきた。
「出張から一旦会社に寄ったら、ちょうど杏奈の退勤時間だったから寄ったんだ。一緒に帰ろう。」
私の様子に気付かないのか、修平さんはこれまでと何も変わらない態度でそう言うと、私の手から荷物をさりげなく抜き取って、体を反転させる。
「車、道の向こうに停めてあるから。」
指差しながらそう言うと、彼は車の方に向かって歩き出した。